奨学金を運営する学生支援機構の決算状況解説【奨学金は貧困ビジネスなのか】
このご時世、大学等へ進学に当たり奨学金を利用された方は2人に1人となっています。
この奨学金、借りる時は良いですが、返すときに順調にいかないこともあります。
奨学金への文句として、貧困ビジネスだの、搾取だの言われることもありますね。
そもそもですが、この奨学金事業を運営する日本学生支援機構は奨学金利用者から利益を巻き上げて儲かっているのでしょうか?貧困ビジネスと言われるほど酷いものなのでしょうか。
今回は、奨学金を運営する日本学生支援機構の経営状況や職員の給料などの運営実態を見て、利益を上げられているのか考察していきたいと思います
目次
日本学生支援機構の経営状況
日本学生支援機構の職員の給料
銀行の教育ローンはもっと高い
悪いのは奨学金ではなく高額な授業料
まとめに代えて
日本学生支援機構の経営状況
日本学生支援機構は上場企業ではありませんが、公的機関ということで決算状況が公表されています。
それを見れば、どれだけお金を得てどの事業にお金を使い、最終的に幾らの利益を上げているかを見ることが出来ます。
ここでは令和2年度の決算状況が公開されています。
最終的な利益は当期純利益として51億円です。
その前段階で、損益を見ていきますと、まずは収益として学資金利息が267億円計上されています。
費用としては、返還免除損という項目が274億円計上されています。
この学資金利息は、有利子の奨学金に対する利息として、奨学金利用者から回収した金額です。
返還免除損は、奨学金利用者の死亡や自己破産、将来にわたる就労の見込みがないために、返還してもらうことをあきらめた金額です。そのまま奨学金利用者に給付した金額と言い換えることも出来ます。
因みに令和元年度では、返還免除損は281億円、学資金利息は297億円です。
ここから分かることは、奨学金の利息と奨学金の免除額はほぼ同額程度になり、奨学金利用者から回収するお金と奨学金利用者へ渡すお金も拮抗していると言えます。
奨学金利用者から回収するお金と奨学金利用者へ渡すお金が拮抗している以上、奨学金利用者からお金を巻き上げているとは言えません。
そのため、学資金利息だけでは学生支援機構の運営は成り立たず、職員の給料も払えないので、国などから補助金を貰い運営しています。
なんだかんだで、最終的な利益の当期純利益が51億円あるじゃないかという指摘もあります。
このほとんどは、貸倒引当金の戻入です。これはあらかじめ奨学金が数%の割合で返ってこないことを費用として計上するものです。
想定以上に利用者がしっかり返済したため、貸倒引当金も不要になり、それを取り崩して利益となっています。
日本学生支援機構の職員の給料
問題は、日本学生支援機構を利用してお金を巻き上げている人がいるかどうかというお話しですね。
そこで、日本学生支援機構で働く方のお給料を見てみましょう。
ざっくり言うと常勤職員の平均で、年収700万円くらいです。
こちら、国家公務員の給料に準ずる形となっています。
普通の会社員として捉えるなら高い給料かもしれませんが、金融業界の職員として考えると高い給料でもないです。
というのは、日本学生支援機構の職員の業務は「お金の督促、取り立て」です。
奨学金を全員が素直に返済するかと言えばそんなことはなく、私含めて、奨学金の返済が困難になる人って結構いるわけです。
そんな資本主義社会の負適合者に対して、返してください、猶予の手続きしてくださいと連絡し、それでも応じて貰えなければ法的手続きも視野に入れることになります。
私のように、生活保護を利用することによる返済猶予、また返済資金が無くて返済猶予を申し込む方もいるわけです。
猶予ならまだしも、自己破産することで奨学金の返済を終わらせる方もいます。
素直に奨学金を返済するような方と仕事を通して関わる機会はないわけで、関わるのは私のように問題を抱えた奨学金利用者です。
という業務に対する対価だと考えると、日本学生支援機構の職員の給料も納得できるものではないでしょうか。
あと日本学生支援機構の職員の平均年齢は、45歳を超えています。
そのため、平均年収が高止まりしている面もあります。
とは言っても、年功序列で給料が上がっていくのは羨ましくもありますね。
職員の給料はともかくとして、高額な報酬を貰っていそうなのは役員クラスの人になりますね。
そこで、役員報酬についてもご紹介します。
トップの年収は1825万円、他の常勤役員の方の年収も1500万円前後になっています。
一見すると、年間で1500万円を超える高額報酬を受け取っていることに、批判の感情が渦巻くかもしれませんね。
ですが、日本学生支援機構のような500人規模の団体を運営する役員であれば、年収1500万円程度は逆に少ないくらいです。
銀行の教育ローンはもっと高い
2022年3月現在の学生支援機構の有利子奨学金利息は、タイミングによっても変わってきますが1%以下になっています。
銀行の教育ローンでそんな金利にお目にかかることはまず無く、2~4%のものが多く見受けられます。
金利が1%以下の教育ローンを提供している銀行もあるはあるんですが、書き方としては金利0.8%~3%などのように幅を持たせています。
金利は貸し倒れリスクに応じて決まるため、金利1%以下の対象になるのは信用度の極端に高い方だけで、もっと言うならそもそも教育資金を前もって用意できるような方です。
教育に必要な資金を借入で用意する必要に迫られている方には、まず縁の無いものだと思ってください。
金利は固定金利で1.65%、ひとり親世帯などの事情があれば1.25%になります
良心的な利息だと言えますが、これでも、学生支援機構の奨学金より利息は高いです。
悪いのは奨学金ではなく高額な授業料
日本の大学授業料は、国際的に比較しても高くなっています。
C5 高等教育機関の授業料と学生への公的補助(EXCEL:100KB ※OECDウェブサイトへリンクの上ダウンロードされます)
国立大学の年間授業料をUSドルに換算したものになります。
日本の年間授業料は53万5千円で、確認できる24か国中、上から5番目になります。
これは2016~2018年の状況を基に、OECD 加盟 36 か国における国公立大学の授業料と奨学金の概要をまとめたものです。
そろそろ日本は先進国だとか、物価が高いから授業料が高いのは仕方がないとか言う平成からのタイムワープ者もいらっしゃらないかとは思いますが、一応言及しておきます。OECDによれば、日本の年間の平均賃金(非正規社員含む)は424万円で35カ国中22位です。
日本という国は、賃金的には中の下、なのに大学授業料は(悪い意味で)上の下くらいの位置にいると言う話です。
大学授業料は所得を踏まえると、他国と比較しても高いです。
国によって、いくつかの型がありますので、ちょっと見てみましょう
ヨーロッパ型
フランス、ドイツ、フィンランドなどのヨーロッパ各国は、そもそも高等教育機関の授業料が少なくなっています。
中には無料にしているところもあります。
イギリス型
授業料が高いものの、支援もしっかりとしているタイプです。イギリスやオーストラリアでは、所得連動型の奨学金があります。
返済時に、所得が300万円や400万円ほどの基準額を超えているかどうかで、もし超えていない場合はその時点での返済は猶予されます。仮にその収入を超えることがずっとできなければ、ずっと借りっぱなしでもOKという仕組みです。
日本、韓国、チリ
公立大学ですら授業料が高く、その上公的支援が少ない、学生から見れば最悪のタイプです。
さらに、日本と韓国、チリに共通する状況として、大学のうち私立大学が占める割合が非常に高い事が挙げられます。この3国は、私立大学に通う割合が7~8割前後になっています。他の国ではこんなに高くなっていません。
これはあんまりだと理解したのか、日本でも低所得世帯においては給付金の奨学金が運用されるようになりましたね。
まとめに代えて
以上、個人的な感想としては、奨学金は貧困ビジネスでも搾取でもないかなと言うところです。
奨学金は、他のお金を用意する選択肢と比較しても、低利息や無利息でお金を借りられたり、お金を受け取ることが出来る手段です。
進学する際には、色々な角度から必要なお金について考えましょう。