生活保護制度とは何か?最低限の生活に足りない生活費を支給する制度
当サイトは、生活保護をメイン題材として扱っています。今回は生活保護制度について、最低限知っておいた方が良い部分をまとめてお話しします。生活保護制度って?と問われた際に、ざっくりと説明できることを目標にします。
一言で表すと生活保護とは、『最低生活費を得られない方に、最低生活費に足りない金額を支給し、自立を促す制度』です。
目次
・生活保護制度の根拠法
・生活保護制度の実施者
・生活保護の支給条件
・生活保護による具体的な支援制度
・生活保護受給者に課せられる制限
・まとめ、生活保護制度とは?
生活保護制度の根拠法
生活保護制度は、日本の法律によって成り立っています。特に重要な法律の条文は以下の3つです。まずは基本となる 日本国憲法25条から見ていきます。
日本国憲法25条1項『すべて国民は、健康で文化的な最低限度の生活を営む権利を有する。』
健康で文化的な最低限度の生活という一文は聞いたことがあるかもしれませんね。この憲法25条だけでは抽象的すぎるので、これを法律として具体化した生活保護法があります。特に生活保護法第一条、第二条を把握しておけばよいです。原文を引用します。
生活保護法第一条『この法律は、日本国憲法第二十五条に規定する理念に基き、国が生活に困窮するすべての国民に対し、その困窮の程度に応じ、必要な保護を行い、その最低限度の生活を保障するとともに、その自立を助長することを目的とする。』
生活保護法第二条『すべて国民は、この法律の定める要件を満たす限り、この法律による保護(以下「保護」という。)を、無差別平等に受けることができる。』
以上で、生活保護制度は日本の最も上位の法律である憲法によって定められた制度だと、理解いただけたと思います。要するに、『日本国民は法律によって、困窮した時に生活保護を受ける権利がある。』程度に認識していれば大丈夫です。
生活保護制度の実施者
生活保護制度は、公的機関により税金で運用されています。一番上に厚生労働省があり、基本的な運用ルールを定めています。そして地方公共団体が、運用ルールに基づいて生活保護を運用します。実務を行うのは、地方公共団体のケースワーカーと呼ばれる方々です。ケースワーカーが所属する実務機関として、福祉事務所があります。
認識しておいて頂きたい点として『生活保護は地方公共団体が運営しているため、生活保護の実態は地域ごとに大きな差がある』という実情があります。
例えば、A市とB市で、似たような状況の方がいたと仮定します。
それぞれで生活保護を申請したとします。どちらの申請者も自分に出来る努力は行ったうえで生活が困窮しているという前提です。A市では、働けそうだからしっかり働いてください、と申請を取り合ってもらえません。B市では、申請を受け付けて貰え「もっと早く相談してくれてよかったのに」と一言言われます。ニュースなどで、生活保護申請者に対する水際作戦(生活保護の申請をさせない)の話を見たことがあるかもしれません。その一方で、生活保護申請をすんなり受け付けてくれるところもあるという話です。
もう1つの例で、生活保護の就労指導に関して例えます。A市では、しっかりフルタイムで働いてください、生活保護を抜けられませんよ!と本人の能力はさておき、働かせることを優先します。B市では、生活保護受給者の実情を見て、少ない勤務時間から徐々に仕事を増やせるように段階を踏みます。社会復帰を断念させないよう無理させないことを優先します。
このように、地域が異なれば生活保護の運用実態も全く別のものになると思ってください。地域によって生活保護の運用は千差万別、てんでバラバラなのが実態です。1つの例だけを取り上げて、生活保護ってそうなんだとは断言できないのです。
生活保護の支給要件・条件
肝心の生活保護の支給要件を一言でまとめます。『努力した結果、最低生活費以上の収入を得られず、活用できる資産も無い』です。憲法の定める最低限度の生活を営むにはお金が必要で、お金を得ることが出来ない方を生活保護で支援します。
生活保護の支給要件は、親戚の援助を受けられないとか、働けないとか、色々情報が出回っています。その結果、生活保護の支給条件に複雑な印象を持っているかもしれません。ですが、単純な原則は『収入が少ない、もしくは無いこと』これだけです。資産があれば売却したり現金化できるので、結局は収入を得られるため、収入だけを観点にすると理解しやすいです。
この最低生活費とは、後述する生活保護による具体的な支援制度の合計額です。
生活扶助と住宅扶助を合わせた金額が最低生活費になります。生活保護基準額と表現されることもあります。この最低生活費は個々人の事情によって大きく異なります。例えば、生活扶助と住宅扶助を合わせた金額を上回る収入の方がいます。それでも医療や介護に多額のお金がかかって、自分では解決できないため、生活保護の受給者になる場合もあります。生活保護を支給されている方の事情は多種多様です。
非常に大雑把ですが、実際に生活保護が支給される場合を図にします。
※図の最低生活費は例として作成したイメージです。お住いの地域や個々人の実情により、最低生活費は大きく変わります。
月給5万円しか稼げないAさんがいるとします。生活保護を受給しない場合、Aさんは月給5万円で生活しています。
活用できる資産が無ければ、生活保護を受けて最低生活費分の収入を得ることが出来ます。収入は生活保護の基準額に5万円満たないので、差額の5万円が給付されます。
現役時代の年金納付額が少なく年金額が月5万円で、週に数時間の労働で得る給料が2万円、合計の月収が7万円のBさん(72歳)がいるとします。生活保護を受給しない場合、この7万円で生活しています。
Aさん同様に、活用できる資産が無ければ、生活保護を受けて最低生活費分の収入を得ることが出来ます。収入は生活保護の基準額に3万円満たないので、差額の3万円が給付されます。
因みに生活保護受給者には働けなくて全く働いていないケースもありますが、敢えて図にはしませんでした。繰り返しになりますが、生活保護の受給要件は働けないことではなく、『最低限の生活費を稼げないこと』だからです。働けないことは最低限の生活費を稼げない理由の1つに過ぎません。働けていても最低限の生活費を稼げていないのなら、生活保護の支給要件になります。例に挙げたAさんやBさんが毎月赤字家計で、取り崩せる資産もなく、少しずつ消費者金融などでお金を借りているなら、遠慮せず生活保護を申請してよいです。
生活保護に支給要件があるなら、逆に生活保護の支給要件を満たさなくなる場合もあります。就職できた、大きな資産が入った、家族の死亡で生活費が少なく済むようになった、などです。その場合は、数か月の様子見期間を置き、生活保護が停止・廃止されることになります。
生活保護による具体的な支援制度
生活保護制度に基づく具体的な給付の内容を簡単に紹介します。色々な角度から生活をサポートしていると認識いただければ良いです。
1.生活扶助
食費や光熱費、生活雑費、被服費、多少の趣味娯楽費を給付します。因みに家賃は住宅扶助という別のカテゴリーになります。
2.住宅扶助
賃貸住宅の毎月の家賃や、敷金や礼金などの一時金も出してもらうことが出来ます。現金を給付されるパターン、大家などへ直接支払われるパターンがあります。
生活扶助費と住宅扶助費を合わせた金額が、毎月発生する出費として、生活保護費の基本的な支給額になります。
3.医療扶助
医療を現物給付(無料で医療を受けられる)されます。特に金銭が支給されることはありません。
4.介護扶助
介護を現物給付(無料で介護を受けられる)されます。特に金銭が支給されることはありません。
5.教育扶助
義務教育を受けるために必要な学用品費などが支給されます。
6.出産扶助
出産に必要な費用を受け取ることが出来ます。
7.生業扶助
生活保護受給者が働くために必要な費用を給付されます。就職をするための衣服購入費や、個人事業で使う機器などの購入費です。また、高校の授業料なども生業扶助として支給されます。現在の日本で中学までの義務教育だけで働くのは困難という事情を汲み取った結果です。
8.葬祭扶助
生活保護受給者が死亡時の葬祭や埋葬にかかる費用を給付されます。給付される費用は必要最低限になり、どうしても必要な埋葬を行う費用の意味合いが強いです。遺体を放置するなど法律上は出来ませんからね。
生活保護受給者に課せられる制限
生活保護受給者は法律によって生活の支援を受けている以上、生活ぶりをケースワーカーへ開示する必要があります。合わせて、生活水準を向上させるための努力が求められています。
まずは生活ぶりの開示になります。具体的には毎月の収入を申告する必要があります。不正な収入が無いことの確認と、収入がどう変動しているか、生活保護を抜けられそうな兆候はあるか確認する意味もあります。合わせて最低でも年に2回の自宅訪問があります。生活保護で問題なく生活出来ているか、追加で支援すべきものは無いかを確認する為です。
生活保護受給者は車の所有、運転を認められることもありますが、多くの場合制限が課せられます。これは車を売ってお金にするべきという意味もありますが、万一事故を起こした際に、賠償責任能力が無いと判断されるからです。
仮に生活保護を受給している方が事故を起こし、5000万円の賠償金を支払うことになったとします。生活保護水準の収入の方に払えると思わないですよね?保険に入ればよいとも思いますが、決して多くない生活保護費から自動車保険費用を出せない方もいます。という理由で、生活保護受給者の運転は、上級国民おじいさんの暴走運転と同様に問題視されます。個々人の実情次第で必ずしも禁止ではないので、ケースワーカーとの相談になります。
そして、生活保護は受給者の自立を前提としており、自立に向けた努力が求められます。具体的には就労活動など、現在以上の収入を得るための行為です。具体的な活動をしておらず、能力的に問題もなさそうな場合には、就労指導という介入を受けることになります。
このように、『生活保護受給者は生活の向上のため、制限や決まりがある』ということです。
まとめ、生活保護制度とは
以上、生活保護制度についての概要をまとめました。最後にもう一度、これだけは知っておいて欲しい点をまとめます
・日本国民は困窮した時に生活保護を受ける権利がある。
・生活保護受給出来るのは努力しても収入が少ない、もしくは無い人
・生活保護受給者は生活の向上のため、制限や決まりがある
・生活保護の実態は地域ごとに大きな差がある
生活保護制度について、どんなものか少しでもお伝えできていれば幸いです。