ヤングケアラーと生活保護【生活保護世帯における高いヤングケアラー率】
子供は親を選べないことを揶揄した「親ガチャ」という言葉がありますね。
幸せな家庭に育つ子供がいる一方で、親ガチャの大ハズレを引き、やりたくもない親や家族の世話を強いられる子供もいます。
家族の世話や介護をしている18歳未満の子供はヤングケアラーと呼ばれており、中には過酷な環境に追い込まれてる場合もあります。今回はそんなヤングケアラーと、生活保護との関連についてのお話しです。
目次
・ヤングケアラーの定義
・ヤングケアラーが生活保護世帯に該当する割合
・ヤングケアラーセルフチェック
・子供をヤングケアラーにするとどうなるか
・行政に任せてしまおう
ヤングケアラーの定義
まずは、ヤングケアラーとは何かというお話をします。
厳密な定義はありませんが、主に家族の世話や介護をしている18歳未満の子供を指します。
例として
『幼稚園児の世話をする小学生』
『うつで家事のできない親に代わって家事をする中学生、高校生』
『外国籍で日常会話のできない親について歩き、翻訳する子供』
『親の介護をする高校生』
みたいな例があります。
ヤングケアラーが生活保護世帯に該当する割合
ヤングケアラーは、保護者の経済力の無さ、家事能力の低さ、それに対して介護や世話などを必要とする家族がいることで発生します。つまり、経済基盤が不安定で、介護や世話を必要とする人も多い生活保護受給者世帯において、発生する可能性が非常に高くなっています。
この研究報告書はヤングケアラーに関して調査したもので、調査報告にあたり、ヤングケアラーであるとみられた子供の生活保護受給者率を調査しています。調査の母数は906です。そのうち、29.6%が生活保護受給者世帯です。この数値が高いのか妥当なのかを見ていきましょう。
そもそもの話ですが、18歳未満の子供全体のうち、生活保護受給者世帯の子供は1%です。令和元年(2019年)度時点での18歳未満の子供は1860万人です。
そのうち、生活保護を利用している18歳未満の子供は20万人弱です。※正確な値ではありませんが、次の統計では20歳未満の生活保護受給者が20万8千人です。なので、18歳未満に直すと20万人に届かないだろうと推測されます。
この数字で18歳未満の子供全体のうち、生活保護受給者世帯の子供の割合を計算します。
20/1860≒1%です。
なので、もしヤングケアラーと生活保護に相関関係がないのであれば、ヤングケアラー全体のうち生活保護の子供も1%のはずです。ヤングケアラーの生活保護率29.6%というのは、生活保護世帯の子供が生活保護でない世帯の子供に比べて、約30倍ヤングケアラーになりやすいという証明になります。
生活保護世帯はひとり親世帯であったり、親が精神疾患を抱えていて活動できないなど、家事や介護をするのもハードルの高い世帯割合が高くなっています。
ですが、その負担を子供に背負わせるのは間違っています。仮に生活保護世帯であれば、子供をヤングケアラーとして使っていないか、自分がヤングケアラーとして苦しんでいないか、気にかけてみましょう。もちろん過度に自身を責める必要はありません。
ヤングケアラーセルフチェック
家族の世話や介護、家事をやっている18歳未満の方もそれなりにいらっしゃるかと思います。
家事や介護を手伝いの範囲でやっているのか、ヤングケアラーとして同世代の子供以上に家事や介護をしているのか、自分では分からないかもしれませんね。
そんな時は、自分がやっていることについて『家族の中で、代わりに世話や介護をできる人が居るかどうか』を考えてみて下さい。
要するに、家族の誰かに対して「代わって」と声を上げると、代わってくれる人が居るかどうかです。
普通の家庭なら「○○してくれてありがとう」という言葉とともに、誰かが代わってくれます。
ヤングケアラーなら「お母さん出来ないから」「お前の仕事だろ」という返事が返ってくるでしょう。そもそも家族は返事を返せるような状態でないかもしれませんね。
自分の代わりに家事や介護をする人が居なくて、もし自分が居なくなることで家の家事や介護が回らなくなるなら、自分は立派なヤングケアラーです。
また『自分の世話か、家族の世話か』という視点でも考えてみて下さい。
自分の洗濯物をたたんだり、自分が食べた食器を片付けるのは『自分のことを自分でやる』というだけの話です。これが自分のものだけでなく、家族のものもやっているとなると家事になります。
自分で食器を洗えない人の食器まで洗っているとなると、自分は他の家族の世話をしているヤングケアラーではないかと疑ってみて下さい。
18歳未満の子供が家族の世話や介護、家事をしなければならない事態は世の中の多数の家庭から見れば異常ですし、そんなことをする義務もありません。ただし、大人になるまでに可能な限り、自分の世話を出来るようになるべきなのも事実です。
ヤングケアラー問題は、保護者が18歳未満の子供を頼ることで発生します。つまり、子供が大変な目に合うことを何とかしようなどと、保護者は考えていません。
大変言いにくいのですが、自分が黙っていても、何もしなくても解決する可能性はかなり低いです。ヤングケアラー問題を解決するには、外部からの介入か、自分でなんとかするか、この2択しかありません。
しかし、ヤングケアラーは家庭内で発生する問題ということもあり、外部からの介入も期待できるものではありません。自分でおかしいと気が付き、行動を起こすことが解決につながります。なので、ヤングケアラーの苦境から抜け出すには、まず自分がヤングケアラーだと自覚するところから始まります。
子供をヤングケアラーにするとどうなるか
子供がヤングケアラーとして家事や介護を担ってくれると、確かに親にとっては少し楽になるかもしれません。
その代わり、子供に大きな負担をかけ、最悪の場合は子供に殺されます。子供も罪を問われますが、ヤングケアラーとして追いつめられていたことを考慮され、執行猶予がつきます。
ヤングケアラーとして追いつめられた子供が起こした事件を紹介しておきます。どちらも20代のヤングケアラーによる事件ですが、懲役3年、執行猶予5年の判決が出ています。罪状としては懲役3年が相当であるが、5年間何もしなければ、懲役刑は課されないということです。
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要するに、子供をヤングケアラーとして当てにし、苦しみを背負わせたのなら、殺されても仕方がないよねというのが司法の判断です。
また、ヤングケアラーとして奉仕を強いられている当事者の方も、自分はそんなことはしないと言い切れるでしょうか?
家族の面倒を見るうちに「この親が居なかったら楽なのにな」「この弟が居なかったらよかったな」と考えたことは無いでしょうか?
人間、心が折れるときはあっさり折れます。追いつめられた時に自分の生存防衛本能が働き、相手を殺して楽になろうとするかもしれません。
自分がずっと我慢することで鬱屈した感情が貯まり、介護や世話をする相手を殺してしまうことだってあるということは頭に入れておきましょう。
行政に任せてしまおう
ここまでヤングケアラーについて説明しましたが、ヤングケアラーははっきり言って個人で解決できる問題ではありません。対応を行政にぶん投げましょう。
まず方針として、変なプライドなど持たず、出来ないものは出来ないと認めて、使える支援は全部使いましょう。行政の世話になるのがみっともないという感情は捨てて下さい。
要するに、家事支援サービスや介護サービスを利用しようということです。ですが、そういったものを利用する金銭的余裕がないため、子供が家事や介護をやるしかない状態になっているかと思います。
なので、子供に家事や介護を押し付けるほど金銭的な余裕がないのであれば、生活保護を利用してください。生活保護世帯であれば、介護支援に必要なものは支援されます。介護支援に多額の費用が掛かるのであれば、相応の金額が支給されます。
もしくは、介護が必要な当事者だけを生活保護世帯として、介護を支援して貰う方法もあります。例えば、15歳の子供、45歳の母親、80歳の祖父、のような3人家族があり、15歳の子供が介護をしているとします。そこで80歳の祖父を世帯分離することで、80歳の祖父だけ生活保護を利用することになり、介護を行政に任せてしまうことが出来ます。
今後、ヤングケアラーに対する認知と支援が広がるものと期待しますが、まだまだこれからです。
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現在は少しずつ問題が認知されている段階です。ヤングケアラーの支援制度が充実するまでは、生活保護など現在の使える制度をうまく使っていきましょう。
もちろん、生活保護世帯においてヤングケアラーとして苦しんでいる当事者の方もいらっしゃいますね。その場合、生活保護のケースワーカーが事情を全く把握していない可能性もあります。親は全く当てにならないので、親を通さずに直接ケースワーカーへ訴えるなどしてみて下さい。
子供には、家族の世話や介護をする義理はあっても、義務はありません。親ガチャでハズレを引いたからと言って、人生を棒に振る義務はありません。遠慮なく行政機関や生活保護を頼ってください。