生活保護世帯において児童虐待は起こりやすいのか【ひとり親世帯虐待率は14倍】
「生活保護受給者は子供を作るべきじゃない」という意見、目にしたことがあるかもしれません。その中でも、「生活保護受給者は結局子供を虐待する、だから子供を作るべきじゃない」という意見を目にしたこともあります。イメージは分からなくもないですが、ホントかな?と疑問に思ったので調べてみることにしました。
今回は、特にひとり親世帯に焦点を当てました。
目次
・ひとり親生活保護世帯の児童虐待率は高い
・ 生活保護世帯すべてが児童虐待するわけではない
・ 児童虐待の現状
・ 虐待をしないために意識すること
ひとり親生活保護世帯の児童虐待率は高い
まずは生活保護世帯の児童虐待率というのはどうなっているのか見て行きましょう。
母子世帯と子どもへの虐待――抑うつの分析も含め――山野 良一
母子家庭で虐待が発生しやすいのではないかという調査研究報告です。
この中に、2008年4月から6月末までに発生した虐待の一部について、状況調査をまとめたものがあります。
虐待を行った世帯のうち
ひとり親非生活保護世帯数
460
ひとり親生活保護世帯数
465
両親が揃っている生活保護世帯
49
両親が揃っている非生活保護世帯
755
という数字があります。この数字から、虐待を行う世帯の比率を見ることが出来ます。
国立社会保障・人口問題研究所 「生活保護」に関する公的統計データ一覧
統計資料です。2つの統計資料から、ひとり親世帯(生活保護、非生活保護)がどれだけあるのかがわかります。これらを合わせると、虐待を行う世帯(ひとり親生活保護世帯等)がその世帯数比に比べて多いのかそうでないのかわかります。年数は異なっていますが、生活保護と非生活保護の比率としては大きく変わっていません。
例えば
人口1000人のA町
人口2000人のB町
人口比で言えば、B町の虐待発生件数が2倍になる筈ですが、 仮にA町で10件、B町でも10件虐待が発生したなら、人口の少ないA町はB町の2倍虐待が発生しやすい、と言えますね。
この理屈を、ひとり親世帯(生活保護かそうでないか)にも当てはめます。
平成28年統計より
ひとり親世帯の総数
141.9万世帯
生活保護のひとり親世帯
9.4万世帯
(生活保護ではないひとり親世帯)
141.9-9.4=132.5万世帯
つまり、ひとり親世帯のうち
非生活保護:生活保護は
132.5:9.4 つまり
14:1 の比率になります
仮に生活保護世帯とそうでない世帯の虐待率が同じであれば、虐待数も同じく14:1に近い数字が出るはずです。ひとり親世帯という条件の非生活保護世帯は、生活保護世帯の14倍ありますので。そうでない場合は、どちらかが虐待をしやすいと言えます。
例えば非生活保護世帯の虐待数が500件であれば、 生活保護世帯の虐待数は35件に近い値になる筈です。そんな数字が出れば、生活保護世帯は子供を虐待するなんて話はデタラメと言い切れますね。
ですが前述した調査では
非生活保護世帯の虐待数が460件に対して
生活保護世帯の虐待数は465件です。
ひとり親非生活保護世帯数:ひとり親生活保護世帯数
460:465 つまり
1:1になっています。
世帯数の上では、ひとり親非生活保護世帯数の方が14倍も多いのですが、虐待数がほぼ同じということは、ひとり親の生活保護世帯はひとり親の非生活保護世帯と比べて、14倍の確率で児童虐待を行うということになります。
因みに両親揃った生活保護世帯においても調査しようとしましたが、両親の揃った生活保護世帯が何世帯あるか調査できそうになかったので断念しました。現状私が分かる範囲では、子供のいる世帯(両親のみと同居、祖父母と同居すべてを含む)が何世帯かを出すのが限界でした。もし調べられたら追記しようと思います。
生活保護世帯すべてが児童虐待するわけではない
統計データから考えると、14倍という数字が出てしまうと、ひとり親の生活保護受給者は子供を虐待すると決めつけるのも無理はないです。ただし、当たり前ですが児童虐待自体をする人自体が全体の一部です。
後で述べますが、全ての世帯をひっくるめて児童虐待をする確率は1%前後です。ひとり親の生活保護世帯が14倍虐待をしやすいとしても、児童虐待をする確率はせいぜい15%~多く見積もっても20%です。
逆に言えば、ひとり親の生活保護世帯でも8割は虐待などしないのではないでしょうか。ひとり親の生活保護世帯が全部虐待をするわけではないと、堂々と主張して問題ないです。
とはいえ、ひとり親の生活保護世帯が子供を虐待する確率15~20%というのは決して低い数字でもありません。自分の周りのひとり親生活保護世帯はみんな虐待している、という意見があるのも納得できる数字です。ここでいうみんなといっても3世帯とかそんな数字です。スマホゲーでガチャとか回すと、20%を3回引くなんて珍しくもなんともないと納得できるのではないでしょうか。
虐待などしないひとり親生活保護世帯にとっては非常に不愉快ですが、虐待をするひとり親生活保護世帯が一定数いることによって、偏見の目で見られることは覚悟を決めた方が良いです。
児童虐待の現状
ここで現在の児童虐待について、現状を見て行きましょう。
全く笑えない数字です。
人ではなく件という数字なので、同じ子供が何回も虐待された重複ケースを含んでいると思います。なので、20万件=20万人とはなりません。実際に虐待された人数は、数千人~数万人は減るのではないかと思います。
ということを考慮しても、児童虐待される児童が多いなと感じます。
因みに2019年の統計になりますが、18歳未満の人口は1860万人です。2020年ではありませんが、数値的に大きく変わることは無いはずです。
20万/1860万を計算すると、1%より少し高いくらいの数字になりますので、児童虐待される可能性は1%より前後と推測できます。100人集まれば1人虐待されているくらいなので、3クラスあるような学校だと1人くらいは虐待されているでしょう。児童虐待というのは特に珍しい現象ではないです。
虐待をしないために意識すること
ひとり親生活保護世帯は虐待をしやすいという結果になりましたが、ひとり親生活保護世帯でも虐待などせずに子供を育て上げる世帯もあります。
その要因は個人個人の状況によりますが、虐待を防ぐ要因として一つ、地域社会との接触という可能性があります。
社会保障審議会児童部会児童虐待等要保護事例の検証に関する専門委員会
「第1次報告から第4次報告までの子ども虐待による死亡事例等の検証結果総括報告」(平成20年)
この調査結果から、子供を虐待により死なせてしまった家庭のうち、児童虐待地域社会との交流が「活発」と該当した方は全くいませんでした。
つまり、生活保護であっても、地域社会と上手く交流することが望まない虐待防止につながります。
地域社会と上手く交流しないというのは、言いかえると自分だけで子育てを抱え込もうとするということです。負担も一人で抱えてしまうので、どこかで負担をうまく処理できなかった結果、そのストレスが子供に虐待として向かってしまいます。
去年、児童虐待が大幅に増えた原因としても、家庭にいる時間が増えたことが指摘されています。親だけで子供に向き合うと、負担も大きくなります。
ということで、地域社会をうまく利用し子育ての負担を処理するのが、虐待防止に良いのではないかと思います。市役所のHPや広報、図書館などの広報など見れば、地域では色々なことをやっているのが分かります。しっかりと情報収集し、地域社会を利用できる機会があればうまく利用しましょう。