生活保護に関する考察

生活保護は年収何万円相当の生活レベルにあたるのかを検証する

生活保護は、額面の年収で言えばどれくらい稼ぐ人の生活に相当するのでしょうか?生活保護を抜けようとする方も、税金などを考慮するなら、額面でどれだけ稼げば生活保護水準以上の生活を送ることが出来るかは、気になるところではないでしょうか?

先日、このような記事を見つけました。

2023/08/13現在、当初引用したyahooニュースの方が見れなくなっていますが
yahooニュース出典元のファイナンシャルフィールドのリンクを張りなおしておきます
生活保護は年収どれくらいの生活レベルにあたる?

記事の結論では、親子3人世帯で「東京都区部では年収約240万円の生活保護費を受け取れる場合もある」と述べています。

東京都区部では年収約240万円の生活保護費を受け取れる場合もある


生活保護費は「最低生活費-収入」で計算され、地域や世帯状況によっても異なります。そのため、保護費が月5万円の場合もあれば、10万円以上の世帯もあります。例えば、東京都区部の3人世帯(33歳、29歳、4歳)の最低生活費は15万8760円です。

仮に収入が0円とした場合、年間で約190万円を生活保護費として受け取ることになります。生活保護費は非課税のため手取りで約190万円となり、年収およそ240万円と同じ生活レベルを送ることが可能です。※概算となりますので実際とは異なる場合があります。

https://news.yahoo.co.jp/articles/ba7aff3657de2918086636af54f7e7adb5f37dcc

私の生活保護経験をもとにはっきり言うと、単身世帯でも年収約240万円ほど、年収240万円を稼いでいた時代と同じ程度の生活水準はありました。
ここからどうして、東京都区部の3人世帯が年収約240万円ほどの生活水準になるのか、さっぱり分かりません。だって生活保護下で3人世帯ならもっと生活水準というか収入水準は上になるでしょう。

読んでみて、あまりに私の経験とかけ離れて気になりましたので、私も計算してみることにしました。引用元記事の問題点として、生活保護下では一般世帯と比べて少し優遇されているもの、無料になるものがありますが、そういったものが全く考慮されていなかった点に触れておきます。

記事を読んでいて気になったのは次の点です。
・医療費無料を考慮されていない
・HNK受信料無料を考慮されていない
・年末一時金を考慮されていない
・水道基本料金減免、もしくは無料を考慮されていない
・家賃の更新にかかる費用が扶助されることを考慮されていない

これらは、生活保護で暮らす実態を理解している方なら、すぐに出てくる項目です。生活保護を1年以上受給して実態を理解している方、生活保護に関わるCWの方などが記事を見れば、この記事を書いた方が生活保護に関して深い知識を持ち合わせていないと感じるでしょう。

少し思うところがあるので、紹介した記事を書いた方を擁護します。記事を作成されたのはFP(ファイナンシャルプランナー)です。だったら生活保護について詳しいのでは?と思うのは大きな間違いです。こんな生活保護での知識など、FPの勉強をするうえでは身につける機会はないので、FPと言えども知らないのが普通です。私も生活保護を利用する前の時点で、FP2級なるものに合格していましたが、生活保護世帯がどのように優遇・支援されるかは全く知りませんでした。

FP1級のテキストも読んでみたりしましたが、2級までと同じく生活保護制度を深堀りすることはありませんでした。正直言って、現行のFP試験というものは、あくまで資産の運用と貧困にならないためのライフプランなどに重点を置いています。実際に貧困になってしまった場合の対応なんて気にも留められていません。敢えて対応を述べると「貧困になったら働け」で終わりです。FP的には生活保護を利用するという思想そのものがありません。なので、現役FPであってもこんな記事を作成してしまうのは仕方が無いと言えます。

話が脱線しましたが、生活保護利用者の年収レベルについて、再度色々な要素を含めて検証してみましょう。

その前に、先ほど述べた点について説明していきます。

生活保護における各種優遇について

・医療費無料

生活保護下では、保険適用の医療を受ける場合、医療費はかかりません。
なので、平均的な医療費相当額を支給されていると言えます。
この医療費相当額分、生活レベルが底上げされているので、加算する必要があります。

2020年において、単身者の年間における保険医療費支出額は、85544円です。
これは高齢者も含めた平均のため、実態との差を感じるかもしれません。
なので、仮に一人当たりの医療費支出額は年間5万円としておきましょう。

・HNK受信料無料

生活保護世帯はNHK受信料が無料です。
支払い方によってNHK受信料は異なりますが、月に1,225円の負担と扱います。
年に直すと1万4700円です。

・年末一時金

生活保護世帯では12月に年末一時金が支給されます。
金額は地域によって異なり、東京都23区のような都心部では大目になっています。
単身世帯で1万4,160円
3人世帯で2万3,790円です。

・水道基本料金減免、もしくは無料

東京都では生活保護世帯の水道基本料金が無料です。
水道は月に10㎥、下水道は月に8㎥、まで無料です。
合わせて月に3124円相当です。
年に直すと3万7488円です。

東京都水道局 水道料金・下水道料金の減免のご案内

因みに、全ての地方自治体が水道基本料金無料で運用しているわけではありません。水道料金をどう設定するかは、一定の設定金額内で、地方自治体の裁量にゆだねられています。ルール上は生活保護世帯への優遇をしなくてもよいのですが、財政破綻した日本一貧しい夕張市ですら、生活保護世帯の水道料金を減免しています。

ということで、大体の地方自治体において、水道料金は無料にならないとしても優遇されるものと思ってください。

・家賃の更新にかかる費用が扶助される

家賃の更新にかかる費用は、名目にもよりますが扶助されます。契約更新手数料、火災保険料、保証料などです。
年ごとの上限はありますが、1か月分の家賃+α程度は扶助されます。

保険料や保証料の更新は毎年でもありますが、契約更新は2年に1回が一般的です。なので、毎年換算では月額家賃の6割相当が扶助されると考えましょう。

家賃が5万円であれば3万円
家賃が6万5千円であれば3万9千円です。

・考慮しない優遇措置

生活保護世帯への優遇措置ではあるものの、今回の計算に含めないものについても触れておきます。

交通費についてですが、東京都であれば都営地下鉄、都営バスに無料で乗れるというものがあります。ただ、この制度は東京都に限った話です。他にも公営交通機関を無料にしているところはありますが、全体から見れば少数派です。そもそも公営交通機関など無い市町村もありますね。このように、交通費の優遇措置については地域差が大きすぎるので考慮しません。

ただ、ケースバイケースで、公営交通機関無料の恩恵を受けている方も居ます。月に1万円以上の優遇、つまり手取りで12万円以上の恩恵を受けている可能性があることは述べておきます。

入浴券についても、東京都の区部、例えば荒川区では、公衆浴場で利用できる入浴券が60枚支給されます。
これは自宅で入浴できない方を対象としています。

入浴券が支給されるのは、風呂無しアパートなどに住んでいる方なので、そんな住環境であれば、住宅扶助額も風呂ありの賃貸に比べれば低いはずです。つまり、入浴券という優遇があったとしても、住宅扶助は満額受け取っていないと考えられます。住宅扶助額で相殺されると言えるので考慮しません。

介護費用も、医療費と同様に生活保護世帯は無料になります。介護が必要な世帯ばかりではないため、今回は考慮しないことにしますが、多額の支援が受けられます。

他にも、生活保護世帯には粗大ごみ回収料金の助成や各種証明書の発行手数料無料もあります。世帯によっては1年に1回も利用しませんし、金額的にもはっきり言って誤差なので無視します。

30歳独身の単身者世帯

まずは30歳独身者の場合を見ていきましょう

生活保護費ですが、後述の親子3人世帯と合わせて

厚生労働省作成の令和3年版 生活保護制度の概要等について

を参考にしています。

東京都区部を例にさせて頂きます。

家賃を除く最低生活費は、月に7万6420円です。
冬季加算5ヶ月分も考慮して年に1万3150円です。

家賃相当の住宅扶助上限額は5万3700円です。ですが、誰もが住宅扶助上限額の家に住んでいるかと言えばそんなことは無いです。実態としては、家賃5万円を切る家に住む人と、家賃5万3000円付近の露骨な生活保護向け賃貸に住む人で2分されています。ですので、上限の5万3700円ではなく、5万円としておきましょう。

これらを合わせて、生活保護費は
年額 153万0190円です

お断りとして、東京都区部など生活保護費が高額な地域で計算しましたが、地方に目を向ければ生活保護費が年額で10万円以上少なくなる場合もあります。

ここに、先ほど紹介したものを加えていき、改めて年額どれだけの生活をしているか計算します。

生活保護費  153万0190円
医療費相当  5万円
NHK受信料  1万4700円
年末一時金  1万4160円
水道料金相当 3万7488円
家賃更新扶助 3万円

合計で年額167万6538円です。もちろん、税金や社会保険料を諸々引かれた後の手取り金額相当です。これだけの金額を手取りで貰うには、額面で年収210万円が必要になります。月給にして18万円以上稼げるなら達成できる金額ですね。

冒頭で、単身世帯でも年収約240万円ほどの生活水準はあったと述べましたが、それは言い過ぎにしても、それに近い水準はあったと言えます。付け加えると、私は生活保護利用時代に、福祉事務所へ申告の上で可能な範囲でアルバイトして収入を得ていました。その一部は収入として手元に残せるため、それを踏まえると年収換算で20万円程上乗せされました。と考えると、年収約240万円ほどの生活水準はあったという体感は正しかったです。

親子3人世帯

親子3人世帯(33歳、29歳、4歳)の場合も見ていきましょう。

東京都区部を例にさせて頂きます。

家賃を除く最低生活費は月に15万8760円です。
さらに、家賃相当の住宅扶助が月に上限6万9800円です。
例によって全世帯が住宅扶助上限まで使うわけではないので、6万5千円としておきましょう。

この最低生活費15万8760円に見覚えは無いでしょうか。冒頭の記事で出ていた最低生活費ですね。おそらく、冒頭で紹介した記事はこの最低生活費だけを生活保護費だと捉え、住宅扶助を考慮漏れしています。

考慮漏れと言いましたがその根底には、世間一般の思う最低生活費水準が、実際の生活保護費と比べてとても低い事が挙げられます。冒頭の記事を書いた方も、3人世帯で月に15万8760円あれば、家賃の補助が無くてもやっていけると思われたのではないでしょうか。それだけではなく、記事をチェックした人、さらには記事にコメントする方の多くまでも、3人世帯で月に15万8760円あれば生活していくのに十分だと思ったはずです。そうでないなら、3人世帯で月に15万8760円は少なすぎるとどこかで指摘が入り、冒頭に紹介した記事はそのまま表には出なかったでしょう。

実際は3人世帯で月に15万8760円ではなく、住宅扶助と合わせて22万3760円です。

最低生活費と住宅扶助、年にして268万5120円です。

ここに、先ほど紹介したものを加えて、改めて年額どれだけの生活をしているか計算します。

※医療費相当額については、小さなお子様への医療費を優遇している地方自治体もそれなりにあることから、子供1人分を除外して計算しました。

生活保護費  268万5120円
医療費相当  10万円
NHK受信料  1万4700円
年末一時金  2万3790円
水道料金相当 3万7488円
家賃更新扶助 3万9000円

合計年額290万98円です。

もちろん、税金や社会保険料を諸々引かれた後の手取り金額相当です。これだけの金額を手取りで貰うには、額面で年収370万円が必要になります。冒頭で述べられていた年収240万円相当とは大きな開きが出ました。正社員の年収中央値が410万円程なので、それより少し低いくらいの水準ですね。

まとめ

ということで、単身世帯では年収210万円、子供のいる3人世帯では年収370万円相当の生活レベルであるという結論になりました。なお、就労控除や障碍者加算など、特定条件下ではさらに手元にお金を残すことが出来ます。

※今回は東京都区部など生活保護費が高額な地域で計算しましたので、地方ではもう少し生活レベルが下がる点はお断りしておきます。

はっきり言ってこの金額が高すぎるとは思っていません。「健康で文化的な最低限度の生活」としては妥当な水準と言えます。

しかし現実問題として、日本は貧しくなり、この金額以下で生活をやりくりする方が大勢います。生活保護で生活が苦しいと思っても、これだけの年収があればやっていけると思う人が多いのも事実です。

生活保護での生活水準は昔と比べ、日本の平均的な生活水準に近くなりました。勿論、生活保護の生活水準が上がったからではなく、世間の生活水準がとんでもない勢いで下がったからですね。

事実、世間の単身者の貯金を除いた消費支出額は、平均して年額190万円程です。年額167万円で生活している生活保護利用者と大して変わりありません。3人世帯の生活レベルも、年収370万円で生活する専業主婦家庭と考えれば、普通にある光景です。

世間一般の生活レベルはそんな水準なのです。なので仮に「お前も生活保護水準で暮らしてみろ」と非生活保護利用者に言おうものなら「いや、出来るけど…?」という回答が返ってくるでしょう。

ということで、生活保護費の多い少ないについて思うところはあるかと思いますが、現在の日本では割と平均的な生活レベルが実現できる水準になっています。

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