健康で文化的な最低限度の生活ー朝日訴訟の解説
健康で文化的な最低限度の生活
生活保護受給者の方には
おなじみの文言だと思います。
「健康で文化的な最低限度の生活」
とは、何でしょうか?
具体的にはどんな生活なのでしょうか?
今回は、裁判で
健康で文化的な最低限度の生活を営む権利
が争点となった、朝日訴訟についてご紹介します。
加えて、朝日訴訟当時と現在の生活保護について
元生活保護受給者の視点から比較します。
目次
・朝日訴訟とは
・朝日さんの生活保護事情
・予備知識ー朝日訴訟当時の物価
・現在に直すとどんな生活?
・判決
・朝日訴訟によって
・現在の生活保護費は
・まとめ
朝日訴訟とは
結核患者である原告は
引用:https://ja.wikipedia.org/wiki/朝日訴訟
日本国政府から1カ月600円の生活保護による生活扶助と
医療扶助を受領して、国立岡山療養所で生活していたが
月々600円での生活は無理であり、保護給付金の増額を求めた。
1956年(昭和31年)、津山市の福祉事務所は
原告の兄に対し月1,500円の仕送りを命じた。
市の福祉事務所は、同年8月分から
従来の日用品費(600円)の支給を原告本人に渡し、
上回る分の900円を
医療費の一部自己負担分とする保護変更処分
(仕送りによって浮いた分の900円は
医療費として療養所に納めよ、というもの)を行った。
これに対し、原告が岡山県知事に不服申立てを行ったが
却下され、次いで厚生大臣に不服申立てを行うも
厚生大臣もこれを却下したことから
原告が行政不服審査法による訴訟を提起するに及んだものである
原告のお名前が朝日さんなので
朝日訴訟と呼ばれています。
※600円はあくまで当時の生活水準における金額です。
朝日さんの生活保護事情
朝日さんは結核で療養所で生活していました。
一応、3食は出ており
住宅費も療養所での生活のため負担はありません。
そのうえで生活保護として受給していた
日用品費の600円については
下着など、生活に必要な品を
600円の範囲で購入してください
ということでした。
管理人も裁判について調べてみて
概要だけを見たときに
当時の600円で衣食住なんとかしろと言われてたの?
と疑問を抱いてしまいましたが
調べると行政もそこまで鬼ではなかったようです。
予備知識ー朝日訴訟当時の物価
そもそも
日用品費、600円は多かったの?少なかったの?
これを知らなければ本件はよくわからないと思います。
参考までに1955年当時の物価などをご紹介します。
まずは賃金から
当時のサラリーマンの月収は15000円程というデータがあります。
高卒の初任給で6600円
日雇い労働者の1日賃金は400円程です。
現在日雇い1日で10000円弱
地方の高卒の初任給で15万円弱と考えますと
当時の日用品費600円は
現在の水準で15000円くらい貰っていたと言えます。
つまり600円は現在の労働者が1、2日働いて
得られる金額と言えそうです。
物価は
卵1つが15円程(卵はずっと値段が大きく変わっていません)
はがき1枚が5円
白米10キロが1000円前後です。
現在は
はがき1枚が63円
白米10キロが4500円前後です。
卵は今も1つが20円程ですが
物価は5倍から10倍になっていると考えられます。
大雑把ですが、物価が10倍になったと考えますと
当時は600円出せば
現在6000円くらいで買えるものを
手に入れられるということですので
一概には言えませんが
当時の600円の価値は
現在の6000円くらいと考えてよいかと思います。
色々な日用品を購入したうえで
シャツは2年に1枚
パンツは年に1枚買える基準であったようです。
現在に直すとどんな生活?
当時の生活を現在の生活に直してみます。
当時の600円=現在の6000円
としますと
1年で72000円支給されるので
最低限生きていくのに必要な
食費・住居費・光熱費を除いた
電話・インターネット利用料
衣服・下着
書籍
療養所提供外の食事
コーヒーなどの嗜好品
これらを 1年につき72000円で賄ってください
という生活になります。
生きてはいけますし
生きていけるだけで有難いのかもしれませんが
生きていて楽しいのでしょうか。
と、考えさせられる生活ですね。
判決
流れを順に追っていきます
引用が多くなりますがご容赦ください。
第一審
東京地方裁判所は
日用品費月額を600円に抑えているのは違法であるとし
裁決を取り消した(原告の全面勝訴)
(東京地判昭35.10.19 行裁11.10.2921)
引用:https://ja.wikipedia.org/wiki/朝日訴訟
第二審
東京高等裁判所は
日用品費月600円はすこぶる低いが
不足額は70円に過ぎず憲法第25条違反の域には達しない
として、原告の請求を棄却した
(東京高判昭和38.11.4 行裁14.11.1963)
引用:https://ja.wikipedia.org/wiki/朝日訴訟
ここで原告の朝日さんは
最高裁判決を聞くことなくお亡くなりになりました。
最高裁
最高裁判所は、保護を受ける権利は相続できないとし
引用:https://ja.wikipedia.org/wiki/朝日訴訟
本人の死亡により訴訟は終了したとの判決を下した。
(最大判昭和42.5.24 民集21.5.1043)
生活扶助基準の適否に関する意見
最高裁は、判決に付け加えて
生活扶助基準についても意見を述べました。
憲法第25条では
引用:https://ja.wikipedia.org/wiki/朝日訴訟
あくまでも国の努力目標を宣言したに過ぎない
従って、具体的な施策については裁量の余地が認められる。
朝日訴訟によって
結局朝日さんがお亡くなりになったことで
最高裁からの朝日さんの主張に対する判決は出ず
最高裁は憲法第25条はあくまで努力目標
という見解を示しましたが
この訴訟を契機に
人間らしく生きていけないほど
低すぎる生活保護費は是正しようという
きっかけになりました。
生活保護者は生きていられればいい
という方針から
最低限の人間らしい暮らしを送れるようにしよう
という方針に変わりました。
現在の生活保護費
単身者の生活保護という前提で考えます。
朝日訴訟当時
健康で文化的な生活(人間らしい暮らし)
のために充てることが出来る生活保護費は
現在価値で毎月6000円でした。
現在
食費や光熱費も合わせた生活扶助を
毎月7万円から8万円程受け取れます。
(住宅扶助は除いて考えます)
人によって出費は幅がありますが
食費2から3万円
光熱費1万円くらいとしますと
生きていくだけで必要なお金は
毎月3から4万円程かかるので
差し引き3万円から5万円を
健康で文化的な生活(人間らしい暮らし)
のために充てることが出来ます。
健康で文化的な生活の送りやすさは
当時に比べれば大きく改善されたのではないでしょうか。
現在の生活保護支給額では
少なくとも、当時の朝日さんが描いていた
健康で文化的な最低限度の生活という水準は
満たしているかと管理人は思います。
まとめ
健康で文化的な最低限度の生活…
の基準をどうするか
非常に難しいテーマですね。
以上、社会科の勉強では
日本国憲法第25条は丸暗記で乗り切っていた
管理人からでした。